東海カーボン株式会社 アニュアルレポート 2019
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社長対談手の顧客・取引先企業と渡り合えない、新興の競合企業とも戦えない、投資家からも相手にされないと痛感しました。経験と技術力には自信がありましたが、それだけでは通用しないと考えたのです。黒田 中長期の成長には、素材メーカーとしてグローバルでのスケールアップが必要という判断に至ったということですね。長坂 その通りです。ただし、いきなり拡大しても持続できなければ砂上の楼閣です。拡大の前に、2016年に徹底した構造改革で贅肉を落とし、そこから成長路線に入りました。私はR&Dからの価値創造が理想的と考えていましたが、環境変化の速さを考慮すると現実問題としてそれでは間に合いません。そこでM&Aという手段を選びました。M&Aの目的は規模拡大だけではなく、ポートフォリオを分散化し、売上規模および各事業のシェア・利益を安定化させることにあります。黒田 4年弱で4社をグループに加えたことになりますが、手応えはいかがですか。長坂 ほぼ狙い通りです。規模を拡大するだけでなく、環境変化に左右されにくい骨太な体質の基盤ができました。黒鉛電極ではアジア・北米・欧州の世界3極体制で競争力をさらに高めています。カーボンブラックは、地産地消型の製品なのですが、世界第2位の米国市場でNo.1の地位を得ました。ファインカーボンでは、今後の成長が見込まれるSolid SiC製フォーカスリングのニッチトップ企業であるTokai Carbon Korea社を連結子会社にしました。前述の通り鉄以上の成長が見込まれるアルミ分野の事業を獲得したのも功を奏しました。これらの結果、3,000憶円以上の売上をコンスタントに出せる事業体に成長しました。黒田 一方で、一連のM&A投資額は1,600~1,700億円とかなり膨らんでおり、一部の投資先について疑問視する声も上がっていたと聞いています。事業拡大に向けた今後の方針をお聞かせください。長坂 特にTokai COBEX社の買収は「異業種ではないか」との指摘も一部にありましたが、同事業は当社がかつて経験している事業であり、主用途も同じ自動車です。私は異業種には手を出さないと決めています。当社の事業と親和性が高く、手堅い会社、すなわちのれんの償却があっても初年度から利益が出ることを要件にしてきましたし、今後も同様です。足元では、COBEX同様、アルミ精錬用カソードを主力事業とするフランスの炭素黒鉛製品メーカー、Carbone Savoie SAS社の買収手続きに入っていますが、一連の買収によってかなり借入もしましたので財務内容の健全化が急務で、当面は買収先のPMIの成功が大きなテーマと考えています。持続成長に向けた課題黒田 PMIの成功には人材確保・育成が重要です。御社の場合、地域・事業領域の両面で拡大を続けており、それぞれが蛸壺化しないような仕組み・工夫が不可欠です。これらについてどのように取り組んでいらっしゃいますか。長坂 中期経営計画の基本方針の一つが、人事のグローバル化です。組織が急速にグローバル化した中で、急務は、経営・各種管理等マネジメント人材の確保です。2016年からキャリア採用を増やし、経理等各職種のプロを数十人集めて育成しています。海外子会社との間では、私を含む当社の経営陣が足繁く子会社を回っています。加えて、技術者を含む実務レベルの交流も進めています。各事業のマネジメント層が当社の工場を訪問し、技術・生産プロセスやコストについて活発に議論しています。また日本国内ではありますが、2016年から事業部をまたいだ人事ローテーションをしています。部長クラスから担当者レベルまで、複数の事業を経験させ、シナジー創出に加え、事業の体質改善や将来のリーダー育成につなげる狙いです。海外拠真のグローバル企業へ。人材・環境・ガバナンス課題に取り組む32東海カーボン アニュアルレポート 2019

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