ビジネスモデルとその持続可能性黒田 企業の持続可能性という視点では、御社の100年を超える歴史に着目しています。長きにわたり御社の事業が提供してきた価値はどのようなものでしょうか。長坂 一般消費者が直接目にする機会は少ないですが、当社の主力製品は自動車・鉄鋼関連等の基幹産業を支える炭素素材であり、その生い立ちから資源の有効活用や再生利用と密接な関係を持っています。例えば、黒鉛電極は鉄のリサイクルに欠かせない製品です。鉄の製造には高炉方式と電炉方式があり、鉄スクラップから鉄をつくる電炉方式のCO2排出量は鉄鉱石から鉄をつくる高炉方式の4分の1と少なく、この電炉向けに素材を提供している黒鉛電極事業は間接的に環境寄与しているという自負があります。また、カーボンブラックの原料油は、コークスメーカーが石炭を乾留する過程で発生する残滓を有効利用すべく、日本で初めて事業化したものです。廃棄するか、鉄道の枕木に塗布するしかなかったものを原料として使用することで、循環型社会に寄与しているといえます。黒田 炭素というと、CO2と混同してネガティブなイメージを持たれがちですが、むしろ逆で「環境価値」の提供こそが御社事業の核心ということですね。これからの中長期的な持続成長においても同様でしょうか。長坂 直近では2018年に当社業績が大きく伸びましたが、その背景には中国の環境規制強化による電炉導入拡大とそれに伴う黒鉛電極需要の急増がありました。また、当社がこれからの成長事業として位置付けているのは、太陽光発電や風力発電、EVのリチウムイオン電池向けの重要部材で、総じてクリーンエネルギーの推進に貢献する素材といえます。2019年に買収したTokai COBEX社のアルミ精錬事業も、自動車をはじめとする軽量化ニーズを見込み、広く社会の環境負荷低減に寄与するものと捉えています。成長戦略の進捗と成果黒田 黒鉛電極の主要顧客である鉄鋼業は電炉鋼生産量の増加が見込まれる一方で、輸送機器の軽量化進展で鉄鋼消費量は頭打ちになる可能性が指摘されています。今回の買収は「環境価値」に軸足を置いてそれらを両睨みする狙いもあったということですね。社長就任以来、成長戦略でポートフォリオ強化と急速ともいえるM&Aを打ち出されていますが、どのようなお考えからですか。長坂 2015年に社長に就任した当時の売上規模は1,000億円ほどでした。長きにわたり日本の産業を牽引してきた鉄鋼・自動車に携わってきたにもかかわらず、事業規模があまりにも小さく、会社の持続成長を見据えると、このプレゼンスでは大株式会社日本総合研究所 創発戦略センター スペシャリスト日本サステナブル投資フォーラム運営委員 青山学院大学非常勤講師元EIRIS シニアリサーチアナリスト黒田 一賢岡三証券で日本株ストラテジスト、英国の企業調査機関でシニアアナリストを歴任。2012年に世界的なESGアナリストランキング、SRI・コーポレートガバナンス調査でそれぞれ世界4位。日本証券アナリスト協会 認定アナリスト(CMA)。近著に『ビジネスパーソンのためのESGの教科書 英国の戦略に学べ』。100有余年にわたって基幹産業の環境負荷低減に資する素材を提供事業の規模拡大とポートフォリオ強化をM&Aで推進31東海カーボン アニュアルレポート 2019ビジョンと戦略事業報告資料編サステナビリティ報告サステナビリティ報告サステナビリティ報告
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